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トランプと都市とわたしたち

特集とは直接的な関係なく、また建築・都市領域に限らず、アート、政治、哲学、文化など、さまざまなトピックについてタイムリーに介入するための記事をお届けする「Notes」シリーズ第1弾。

トランプと都市とわたしたち
Photo by visuals / Unsplash

2025年1月20日、アメリカでトランプ大統領が就任した。この事実が世界に与える影響は計り知れない。

このTeen Vogueの記事は、1月20日という日がキング牧師記念日であることに重ねて、アメリカ史における政治的サイクル「再建と贖罪」を引き合いに出し、トランプ政権による白人至上主義時代の到来に警鐘を鳴らしている。

What Trump’s Inauguration Has to Do With the Era After the Civil War
Resurging white power politics. Political violence. All-powerful businessmen. Sound familiar?

再建 Reconstruction とは、南北戦争後に再統一された南部11州の再建期(1865–1877)を指し、奴隷から解放されたアフリカ系アメリカ人たちを社会に統合し多民族民主主義を実現するための試みだった。贖罪 Redemption とは、この再建期に反発した南部住民による白人至上主義の復活を求めた暴力的な政治的圧力を指す。この贖罪により当時再建は果たされなかったものの、その後の公民権運動につながっている。

History & Culture - Reconstruction Era National Historical Park (U.S. National Park Service)

都市は政治に大きな影響を受ける。トランプ大統領は、公民権運動などをとおして得られた現代のアメリカ社会に、贖罪の新時代を築こうとしている。そのような時代には、どのような都市が現れるのだろうか。

トランプ大統領は大統領選を制する前、連邦政府の土地に一から建設されるあたらしい「フリーダムシティ」の設計・建設コンテスト開催を呼びかけていた。それは、垂直離着陸機の開発によりモビリティ改革をアメリカが主導し、中国からの輸入を遮断して自国産業の活性化を図り、子づくりを奨励する「ベビーボーナス」による人口急増が骨子となる都市だという。

Trump calls for contest to create futuristic ‘Freedom Cities’ - Politico

彼のいう「自由」は、アメリカという国(あるいは彼自身)にとっての自由でしかないだろう。選挙期間中から主張していた移民禁止、中絶へのアクセスの遮断、就任初日に実行した「国家エネルギー緊急事態」の宣言やパリ協定からの離脱など、さまざまなふるまいからそのことがうかがえる。「地球上のどの国よりも大量の石油とガスを手に入れ、それを使うつもりだ」と就任演説で語ったのだから、疑いようもない。だからこそ、トランプ大統領の就任は、アメリカという国だけでなく、日本で暮らすぼくたちにとっても大きな影響力をもっている。

Everything climate-related Trump did on Day 1
From declaring a “national energy emergency” to exiting the Paris Agreement, here is everything climate-related Trump did on Day 1.

ところで、Teen Vogueは、10代から20代の読者向けに、カルチャーやファッションなどの記事を発信するメディアだが、このように政治やアイデンティティに関する本質的な記事を発信していることも大きな特徴としてあげられる。「世界をよりよく変えたいと願う若者のためのガイド」として、独自の立ち位置から記事を制作している。

Teen Vogueは、こうした状況に対して若者をただ脅しているわけではない。トランプの当選後すぐに公開したべつの記事では、さまざまな文化人たちの選挙に対することばを紹介しながら「世界にはまだ美と希望がある」と言い切っている。

「前途は長く険しい。けれど、独裁政権に反対票を投じたわたしたちは、わたしたちが民主主義支持者であることを示した。……善良な候補者たちが勝利を収め、善良な有権者たちが特定の自由を謳うことを決めた。いま、わたしたちは歴史の正しい側で「ありつづける」ための準備をするのだ」– ケイティ・ファン

If Donald Trump’s Win Scares You, Here Are Some Words of Encouragement to Help Today
“Let yourself find joy.”

冒頭の記事に書かれた次のことばは、おそらくアメリカ人に対して書かれたものだが、日本に住むぼくたちも、他人事ではなく現代の地球に生きるひとりの人間として深く刻むべきことだろう。世界の再建はこれから成されることなのだから。

「この贖罪主義的な政治はおそらくすぐにはよくならないだろう。しかし、歴史とは教訓であり、規範ではない。わたしたちがどこにいたかを知ることは、これから進むべき道をイメージするのに役立つが、それを決定づけるものではない。わたしたちは最終的にたどり着きたい場所へ自ら橋を架けることができる。いまどこにエネルギーを注ぐべきか、厳しい決断を下すのは、わたしたち次第だ」